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鉄欠乏性貧血 若い女性に多い貧血の原因です

鉄欠乏性貧血、名前は聞いたことがあるかもしれません。文字通りミネラル分の一種である鉄が不足することで貧血をきたす病気です。

貧血は血液成分の中でも赤血球が不足する病態であり、出血やビタミン不足でも起こるため、鉄欠乏だけが貧血の原因ではありません。しかし、月経があることもあり、若年女性に多い鉄欠乏性貧血は最も主要な貧血の原因です。

鉄欠乏性貧血についてその病態や治療について御紹介します。

*鉄欠乏性貧血とは?

*どんな症状が現れる?

*原因は?

*検査は?

*治療は?

*鉄剤の内服

*鉄剤の点滴

*鉄の多い食事

*さいごに

*鉄欠乏性貧血とは?

まず、貧血について簡単におさらいをします。(貧血全般についてはこちら→)貧血は血液の血球成分である赤血球が不足した状態を表す病名です。ヘモグロビン(Hb)の値で評価することができます。男女で正常値に差がありますが、一般に成人男性でHbが13g/dL未満,成人女性で12g/dL未満,高齢者や妊婦さんでは11g/dL未満を貧血と診断します(WHOより)。

※立ち眩みなどがした時に一般的に使われる”脳貧血”という言葉ですが、医学的には脳貧血という病態はなく、立ち眩みなどがある患者さんが必ずしもヘモグロビン値の低い貧血状態にあるわけではありません。多くの場合、”脳貧血”は起立性低血圧等、一過性の血圧低下による脳の血流不足からくる前失神の状態です。(失神についてもご覧ください→

この貧血の原因は様々です。最もわかりやすいのが今まさに血が出ていることで血液が不足する出血による貧血です。大けがや吐血、下血などがあればわかりやすいかもしれません。一方、貧血の原因で最も多いのが鉄欠乏性貧血です。赤血球に含まれるヘモグロビンの原料の一つである鉄が不足することにより、赤血球不足=貧血となってしまいます。

一般的にゆっくりと進行する慢性の経過をたどるため、出血のように急な貧血にはならず、むしろHbの値がぎょっとするほど低くても平然としている方も少なくない、健診などで指摘され、見つかることも多い疾患です。

※私がお会いした”平然と”している貧血で一番重症であった方はHb値が5g/dl台の若い女性でした・・救急車の対応中には3g/dl台の高齢患者さんの診療を行ったことがあります。

*どんな症状が現れる?

貧血自体の症状と鉄欠乏による症状が出現します。

貧血自体の症状;顔面蒼白、立ち眩みや少し動いただけで息が上がるなどの症状が出現します。貧血の状態では一回の心拍で運べる酸素の量が不足しますので、それを数で補おうとして頻脈(脈拍数が増加する)になります。もともと色白の方もいますが、目をあっかんべー状態にした眼瞼結膜がピンク~赤でなく、白い場合は貧血の可能性があります。

鉄不足による症状;鉄自体が不足すると貧血以外にも症状が出現します。爪の形が変わってしまう、(さじ状爪(爪が薄く平坦になる))や舌がのっぺりとして痛みが出現する舌炎、口角炎はしばしばみられます。その他、変わった症状として異食症があります。多いのは氷をがりがりと食べる異食症です。また、鉄の不足により精神的に不安定になったり、不眠になったりすることもあるようです。漠然とした不調の意外な原因が鉄欠乏の場合もあるということです。

*原因は?

鉄は体内にも一定量貯蔵されていますが、基本的に食事から摂取するInと排泄されるOutのバランスが重要です。鉄不足となるのは①鉄分の摂取不足、②消費の亢進が原因となります。

①摂取不足;やはり偏った食事は様々な栄養素の不足に併せ、鉄欠乏の原因となります。いわゆるジャンクフードやコンビニ弁当のような食事が続き、バランスの良い食事が摂れない場合鉄欠乏になる可能性があります。鉄は吸収率が悪いため、日々の摂取が重要になります。

②消費の亢進;鉄の摂取が足りていても使用量が増えれば鉄は不足してしまいます。理解しやすい鉄の消費は慢性的な出血です。女性の場合は月経がありますし、過多月経(経血量が多いなど)があればさらに出血による血液の消費が増えます。男性や閉経後女性の場合注意が必要なのが消化管、すなわち胃や腸からの出血です。胃炎、胃潰瘍などの出血や胃がん、大腸がんからの持続的な出血は鉄欠乏性貧血の原因となります。

*検査は?

貧血の場合、必要な検査は貧血自体の評価と原因の検索です。

貧血であるかの検査;ずばり血液検査でヘモグロビンの値を確認します。一般的な採血で評価可能です。(クリニックの場合は外注検査のため翌日結果がでます)その検査でヘモグロビン値が低下していれば貧血の診断となります。貧血であることが判明したら、続いてMCVという値に注目します。MCVはMean Corpuscular Volumeの略で平均赤血球容積、すなわち赤血球1個当たりの、平均的な大きさを示します。鉄欠乏性貧血では材料不足のため、赤血球が小さくなりますので、MCVの値が低下します。以下にまとめます

Hb正常、MCV正常 →正常

Hb正常、MCV低値 →潜在的な鉄欠乏の疑い

Hb低値、MCV正常 →正球性貧血と呼びます 出血や腎機能障害が原因となります

Hb低値、MCV低値 →小球性貧血と呼びます 鉄欠乏性貧血etc

Hb低値、MCV高値 →大球性貧血と呼びます ビタミンB12や葉酸不足etc

鉄欠乏性貧血が疑われる場合、さらに血液中の鉄(血清鉄、Fe)や貯蔵鉄(フェリチン)を評価します。血清鉄やフェリチンが低ければ鉄欠乏性貧血の診断となります。

原因を調べる検査:貧血の原因としては出血の有無を確認することが重要です。特に男性や閉経後女性で鉄欠乏性貧血がある場合はどこかからの出血がないか、検査を追加する必要があります。具体的には便潜血検査や胃カメラ、大腸カメラによる消化管の評価が重要です。

*治療は?

足りない鉄分を補うのがメインの治療になります。高度の貧血(ヘモグロビン値が7g/dlを切るような貧血)の場合、緊急を要すれば輸血の適応がある場合もありますが、一般のクリニックで診療する患者さんではほぼいないと思います。よって鉄の補充について紹介します。

*鉄剤の内服

最もよく行われる鉄不足の治療が鉄剤の内服です。クエン酸第一鉄Na錠などが有名かもしれませんが、様々な鉄剤があります。1日1-2回の内服で鉄を補充できる良い治療ですが、いくつか弱点があります。まずは胃腸障害が出る方が少なくありません。特に鉄欠乏性貧血になりがちな若い女性で出やすい副作用(という印象があります)で、吐き気が強く内服を継続できない方も多くいます。続いて、経口の鉄の摂取は実は吸収率がとても低いです。一般的に経口鉄剤の吸収率は、健康な成人ではたったの10~20%、鉄欠乏があっても50~60%と考えられています。すなわち、鉄不足で鉄を内服しても半分程度しか吸収されません。当然摂取する鉄の全体量が多ければ多いほど鉄の吸収量は大きくなりますが、量の増加に伴い胃腸障害の頻度も高くなってしまいます。

*鉄剤の点滴

鉄剤が内服できない場合、点滴による投与も可能です。血管に直接鉄が入りますので、胃腸を通過せず、胃腸障害の副作用は出現しません。また、鉄の利用率も当然経口摂取より高くなります。デメリットとしてはクリニックや病院でなければ投与できない、というのが最も大きなデメリットかもしれませんが、1回に投与できる鉄量が多いため、週1回、月2回程度の補充でも効果を示すことが多く、必ずしもデメリットにはならないかもしれません。

最近ではフェインジェクとという大量の鉄を一度に補充できるような薬品も発売されており、当院でも高度の鉄欠乏性貧血があれば使用することがあります。

*鉄の多い食事

最後に鉄欠乏性貧血の時に気を付けたい食事について紹介しておきます。

鉄分を多く含む食品
鉄分は動物のレバ-や赤身の肉、あさり、かき、魚の血合いの、大豆製品、緑黄色野菜、海藻などに多く含まれています。特に、吸収しやすいヘム鉄の多いレバーや血合いは鉄補充に有効です。

鉄の吸収を良くする食品
①酢、柑橘類、梅干しなど酸味のあるものや香辛料:胃液の分泌を促す
②ビタミンCの多い野菜、いも類:鉄の吸収を促進させる。
③鉄以外の造血成分であるビタミンB12、葉酸、ビタミンB6(いわし、かれい、卵黄など)、銅(貝類、レバ-、ごまなど)

鉄の吸収を妨げる成分

緑茶や紅茶、コ-ヒ-などはタンニンがたくさん含まれますが、タンニンは食事と一緒に摂取してしまうと鉄と結合して鉄の吸収を阻害してしまいます。

*さいごに

鉄欠乏性貧血は比較的ありふれた疾患です。特に若い女性のなんとなく不調・・の原因が鉄欠乏によることはしばしばあります。鉄剤の内服や鉄剤の点滴による加療が進み、貧血やフェリチン(貯蔵鉄)の値が改善するとともに体調そのものが良くなってくる方も少なからずいらっしゃいます。立ち眩みなどの気になる症状があったり、健診で貧血を指摘されたときは気軽にご相談いただければと思います。内服、点滴など身体や生活習慣にあった治療を行っていきましょう。

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