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多発性硬化症

多発性硬化症・・いかつい文字が並ぶ難しそうな病名です。これだけではもはやどの臓器の病気かもわからないかもしれません。

多発性硬化症は神経内科疾患の一つです。この後詳しく述べますが、神経細胞の役割を助ける髄鞘というものが脱落することから脱髄疾患の一つに数えられています。

日本人にはあまり多くないものの、特に欧米ではメジャーな神経内科疾患として闘病する患者さんも決して少なくない病気です。

今回はその多発性硬化症について紹介します。

*多発性硬化症とは?

*症状は?

*原因は?

*診断は?

*治療は?

*予後は?

*最後に

*多発性硬化症とは?

脳は数百億のニューロン(神経細胞)が網目のように手をつなぎ(シナプス)情報伝達をしてその役割を果たしています。このニューロンは軸索(じくさく)という長い触手のような手を伸ばしてほかの神経細胞とコミュニケーションをとります。

この触手の部分の情報伝達は電気信号が担っています(細かい話は割愛します)。しかし長い触手にそのまま電気信号が流れるのはあまり効率がよくないため、触手部分(軸索)には適宜、電気を流さない絶縁体が巻き付いています。この絶縁体を髄鞘(ずいしょう)と呼び、これを作るのがグリア細胞と呼ばれる細胞の役割です。この絶縁体のおかげで、軸索の電気信号はピョンピョンと絶縁体部分を飛ばして(跳躍伝導)スムーズに情報伝達ができるようになります。

 

この髄鞘を自分の免疫が誤って攻撃し、絶縁体が外れてしまうのが多発性硬化症です。髄鞘が脱落する=脱髄疾患とも呼ばれます。(※脱髄疾患は多発性硬化症だけではありません)

絶縁体が外れた軸索はうまく電気信号を伝えることができなくなりますので、その部分の神経細胞が担っていた機能が果たせなくなります。

基本的に脳のどこでもこの現象が起こりうるため、脱髄が起こった場所により様々な症状が出現することになります。

多発性硬化症、このいかつい名前の由来は、患者さんの死後、脳を取り出すとこの脱髄が起こった場所がほかの部位よりも固く(硬化して)触れるためです。脳の様々な部位に多発する硬い部分がある=多発性硬化症、という病名になりました。神経内科の先生はしばしば英語の頭文字をとって、多発性硬化症=Multiple Sclerosis=MS(エムエス)と略して呼びます。

 

*症状は?

症状は脳のどの部分に病気が起こるかによりますので、様々な症状を呈することになります。

病変が・・

・運動を司る神経に起こった場合:筋肉を動かす指令がうまく伝わらなくなるため、麻痺や動かしづらさ、つっぱりなどの症状が出現します。脳梗塞の場合は、右の梗塞では左の手足、顔面に症状が起こりますが、多発性硬化症では脳の左右の部位に病気が出現すれば右手と左足、のような麻痺を呈する場合もありえます。

・感覚を司る神経に起こった場合:感覚の鈍麻や異常な痛みの近くが出現します。お風呂の温かさがわからなかったり、触れている感覚が鈍くなったりします。また、首を曲げた時に腰から足にかけて感電したようなしびれ感、痛みが走ることがあります。(レルミッテ徴候)

・平衡感覚を司る神経に起こった場合:ふらつきが出てうまく姿勢を保てなくなったり、まっすぐ歩けなくなってしまったりします。

・認知や感情を司る神経に起こった場合:記憶力の低下や思考力の低下、判断力が鈍ったり感情がコントロールできなくる、うつのような状態になるなどが見られます。

その他さまざまな症状が出現しえます。

 

*原因は?

原因は完全には解明されていませんが、自分の免疫が誤って自分自身を攻撃してしまうタイプの病気、すなわち自己免疫疾患のひとつではないかと考えられています。

人種差が大きいことから、遺伝的な要素の重要性も示唆されています。

自己免疫疾患にはほかにも関節を攻撃してしまう関節リウマチや血管を攻撃してしまう各種の血管炎、いろいろな結合組織を攻撃してしまう全身性エリテマトーテスなどがあります。

*診断は?

まずは病歴と症状、身体所見が重要です。また家族歴などもしっかりと確認する必要があります。

最初にクリニックなどで行う程度の一般的な血液検査では明らかな異常はないことが多いです。髄液検査という脳や脊髄の周りを満たしている液体の検査は必須です。背中から針を刺して行う必要がありますが、上手な先生(相性もありますが・・)であれば10-15分程度で終わる検査です。

続いてMRI検査が重要です。典型的なMRIの所見があれば高確率に多発性硬化症を疑い、診断につなげることが可能です。

いずれにしても多発性硬化症の場合、神経内科専門医のもとでできるだけ早めに適切な診断を付けることが重要です。

*治療は?

免疫力を抑え、脱髄を進行させないこと、再発を繰り返さないことが治療の目的になります。初めて症状が出てしまった場合やとても重篤な症状がある場合は、免疫抑制剤であるステロイドを大量に点滴する治療(ステロイドパルス療法)や一旦血液を体外に出して原因となっている炎症を起こす物質取り出してから再度血液を戻す(血液浄化療法、人工透析のようなもの)治療が必要になります。その後ある程度炎症が治まれば次は再発予防を目的に種々に薬を使用することになります。

多発性硬化症の再発予防には飲み薬や注射製剤などがあり、神経内科専門医の医師の指示のもと慎重に薬を選択する必要があります。

*予後は?

一口に多発性硬化症と言っても様々な病型があります。また、脳のどこに病気が起こるかで症状も異なりますので、一概に予後を述べることは困難です。

症状の進行の仕方で3つの型に分類されます・・

再発寛解(かんかい)型
9割以上の患者さんは、この型で発症します。急に症状があらわれ、症状が増悪します。しばらくするとその症状が改善傾向となり、寛解します。2回目以後の増悪を再発といい、この再発と寛解を繰り返すため、再発緩解型と呼ばれます。炎症が高度であれば再発の後に後遺症が残ることがありますが、症状が持続的に増悪したり進行したりする現象はみられません。再発の頻度は不規則で予測も難しく、当然個人差もあります。この時期に適切な治療を開始しておくことが重要です。
一次進行型
最初の症状がでてから、寛解することなく、長期にわたって徐々に症状が進行します。進行が一時的に止まったり、わずかに改善することもありますが基本的に一方向的に悪化していってしまうタイプです。日本人多発性硬化症患者さんの約6%がこのタイプと言われます。
二次進行型
最初は再発寛解型で始まりますが、途中から寛解することがなくなり、症状の増悪が止められなくなってしまいます。進行の程度に緩急はありますが、回復したり症状が軽くなることはなくなります。再発寛解型からこの二次進行型に進行してしまう、ということです。

*最後に

多くの神経内科疾患と同様に多発性硬化症も発症してしまった場合、その後長く病気と付き合っていかなければならない疾患です。特に再発寛解型の患者さんにおいては適切な再発予防薬を適切に使用継続することでできる限り再発を起こさないことが重要です。以前受け持った患者さんはたくさんの薬(注射)を処方されていましたが、おそらく多発性硬化症による認知機能の低下があり、全く薬を使わずに何年も過ごしてしまっていました。結果としてまだまだ若年でありながら歩行もできなくなっており、また一般生活が困難な程度に認知機能の低下も残ってしまいました。うまく治療がなされていたら・・・ととても残念に思った患者さんでした。

クリニックではなかなか診断⇒治療は難しい難病(特定疾患)ですが、初発症状は決して見逃さないようにしようと肝に命じて診療をさせていただいております。

不安な症状があれば気軽にご相談ください。

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