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クリニックで出会う希少疾患  ~脊髄腫瘍~

脊髄腫瘍、「腫瘍」と名前がついていますので脊髄にできる腫瘍であろうことは容易に想像がつくかもしれませんが、肺癌や大腸癌、などのように有名で患者数も多い腫瘍に比べかなり稀な疾患です。脊髄は脊椎(背骨)の中を通る太い神経の束であり、身体の運動を司る運動神経、身体や内臓の感覚を司る感覚神経、自律神経が通る重要な構造物です。多くの神経疾患と同様に脊髄の高さや部位によって機能が異なるため、一言に「脊髄腫瘍」と言っても腫瘍の発生場所によって様々な症状が現れるという特徴があります。

今回はこの脊髄腫瘍に関して紹介します。

実例 

脊髄とは

脊髄腫瘍とは?

症状は?

診断は?

治療は?

最後に

 

実例

ある日「3週間くらい前から右足先に“熱い”感覚があり、様子を見てきたが徐々に悪化、痺れ感(正座した後に似たびりびり感)も加わり、最近は太ももの辺りまでその異常感覚が広がってきた」という患者さんが来院されました。身体の動き自体には異常がありませんが、不思議なことに胸から上だけ以上に汗っかきになった、という症状もありました。(これは患者さんは症状と自覚していませんでしたが、診察中にも異常な発汗があり、よくよく聞いてみたところから判明しました。)

比較的急激に進む感覚神経の異常と発汗・・血液検査では異常はなく、総合病院に紹介、脊髄のMRIで脊髄の外側にできた腫瘍が脊髄そのものを圧迫していることが判明しました。手術加療で症状は消失し、普通の生活が出来るようになりました。

脊髄とは

脊髄は脳から筋肉に動きの指令を出す運動神経や皮膚などの感覚を脳に伝える感覚神経、そして内臓の動きなどを司る自律神経が通る太い神経の束です。脳→脳幹部から下の部位が脊髄ですが、ここから脊髄!というラインが目に見えるわけではありません。

様々な役割の神経の束が整然と並んでおり、場所によって機能が異なる、また、上半身の神経は頚髄~胸髄、下半身の神経は腰髄~仙髄と脊髄の高さ(高位)によって含まれる神経束が異なる、という特徴があります。

 

脊髄腫瘍とは?

脊髄腫瘍とは脊髄にできる腫瘍のことで良性の場合も悪性の場合もあります。

脊髄腫瘍はまず、そのできる部位によって大きく3つに分類されます。

〇髄内腫瘍:脊髄の内部にできる腫瘍です(脊髄腫瘍の20~30%)

〇硬膜内髄外腫瘍:脊髄を覆う固い膜である硬膜の内側、脊髄そのものの内部ではない場所にできる腫瘍です。

〇硬膜外腫瘍:硬膜の外側にできる腫瘍です。

更に、腫瘍はその由来から

〇原発性(最初からそこにある細胞による腫瘍)

〇転移性(身体の別の部位にある腫瘍(ガン)が転移して腫瘍をつくる)

に分けることが出来ます。

そして最後に原発性はその由来から様々な種類に分類されます。(血管腫、脂肪腫、髄膜腫、神経鞘腫などなど)

転移性の腫瘍は“転移”している時点で100%悪性腫瘍ですが、一方で原発性の脊髄腫瘍の多くはその場にとどまって大きくなるだけの良性腫瘍が多いことが知られています。

 

症状は?

腫瘍そのものが症状を来すというよりは、腫瘍によって障害を受ける神経によって多彩な症状が出現します。よって腫瘍が出来る部位(高さ)、場所が重要です。

高さによる違い

〇頚髄:手、体幹、足に広く症状が出現し得ます

〇胸髄~腰髄:体幹~足に症状が出現します

障害される部位による違い

〇運動神経の障害:筋肉を動かす神経が傷害されます 麻痺、動かしづらさ

〇感覚神経の障害:体からの感覚を脳に伝える神経が障害されます

異常な感覚(熱感や冷感)、痺れ、感覚鈍麻

〇自律神経の障害;発汗の異常、排尿障害、排便障害、EDなど

 

診断は?

症状から脊髄腫瘍が疑われる場合はMRIやCT等画像検査が必須になります。画像検査で脊髄腫瘍が見つかれば一旦診断が確定しますが、その腫瘍が何者なのか、に関しては追加の検査が必要になります。

Ex)転移性の脊髄腫瘍が疑われる場合は、一体どこから来たのか、原発巣(おおもとの癌)の検索が必要です。

 

治療は?

物理的な“できもの”が悪さをする疾患のため、脊髄腫瘍は基本的に外科的な手術による治療が必要です。

ただし転移性の癌の場合は化学療法などが優先される場合もあります。

また、それと並行して各症状に対する対症療法も行われます。

Ex)痛みに対する痛み止めの内服

尿閉(自力で排尿できない症状)の場合の尿道カテーテル留置 など

 

最後に

脊髄腫瘍はその発症が10万人に1~2人と言われるレアな疾患です。脊髄の障害による症状がゆっくりまたは比較的急速に現れますので、確定診断までに色々な科を回っている患者さんも多いと思われます。中々ご自身で疑うことは難しい疾患であり、気になる症状がある場合はその時間経過、変化、広がりなどを記録に残して医師に伝えて頂くことが診断の一助になります。

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