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クリニックで出会う希少疾患  ~慢性血栓閉塞性肺高血圧症(CTEPH)~

肺高血圧症という病名を聞いたことがあるでしょうか?日常生活で我々が高血圧症、という場合は腕や手首で測る身体の血圧が正常範囲よりも高い状態を指します。一方で肺高血圧症は読んで字のごとく、肺の血圧(血液が血管を通る時の圧力)が高い状態を指します。肺の血圧は簡単には測れませんので、症状が出てきた時にこの疾患を疑い適切な検査を行い、診断につなげていく必要があります。

人間の心臓には4つの部屋がある、というのは小学校の理科でもやりますね!このうち、左の部屋(左室)は心臓が収縮した時に大動脈に向けてがつんと血流を送り出して体の血圧を生み出します。では右の部屋(右室)の血液が向かうのは?それが肺です。よって心臓の右側の部屋に負担がかかるのが肺高血圧症の特徴です。

今回はその中でも慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH シーテフ)についてご紹介します。

実例

CTEPHとは?

原因は?

症状は?

診断は?

治療は?

最後に

 

実例

先日「ここ2か月くらいかなり息切れがあり、家の酸素モニター(SpO2を測る機械)で低い時に60%台になることもある。元々喘息などもあるけれど、それとは違う息苦しさになってしまった」という患者さんが来院されました。SpO2(95~100%が正常)は91~92%と低く、少し動いただけで呼吸困難が生じています。一方で胸の痛みやレントゲンでの異常はありません。心電図は心筋梗塞を示す所見はないものの、以前のものと比べると心臓の“右側”に負担がかかっていそうな形態に変化しています。この時点で肺の血圧が高い状態が疑われ、クリニックレベルでの診療は困難であることから総合病院に送ることになりました。

結果としてこの患者さんがCTEPHとの診断に至ったことから、今回この記事を記載しました。

 

CTEPHとは?

慢性肺血栓塞栓症とは、肺の動脈に血栓が流れ着き、それが固まること(器質化すること)で閉塞してしまい、6か月以上にわたって肺の血の流がれや血の分布等の異常が固定している病態を指します。そして慢性肺血栓塞栓症の中でも肺の動脈にかかる圧力が基準値(25mmHg)以上の肺高血圧症を合併している場合を慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromoboembolic pulmonary hypertension:CTEPH)と称します。

まさに読んで字のごとく、慢性的に血の塊(血栓)で肺動脈が閉塞し、肺の血圧が高くなってしまう病気、ということです。

原因は?

原因はその病気の名前の通り、血の塊が肺の動脈につまること、ですが、何が理由で血栓が詰まりやすくなるかはまだまだ解明されていません。

急性肺塞栓症(PE)という疾患はいわゆるエコノミークラス症候群ともいわれる病気で、足の静脈にできてしまった血の塊が急に肺の動脈に詰まるため、胸痛や急な呼吸困難が生じ、時に命に関わる重大な疾患です。このPE血栓が慢性化してCTEPHになる場合もありますが、多くのCTEPHの患者さんはPEのような急な症状は体験しておらず、知らぬ間に肺に血栓がつまり、肺高血圧を来してしまうことが知られています。一部血液疾患で血液が固まりやすい病気の方でも発症しますが、そういう血液異常がない患者さんがほとんどです。

 

症状は?

肺高血圧症の自覚症状としては、特に何か動作をした時の呼吸困難、息切れ、疲れやすさ、動悸、胸の痛み、失神などが挙げられます。いずれも肺高血圧症だけに特徴的な所見ではないため、心筋梗塞や肺塞栓症など、その他様々な疾患の可能性がる症状です。これらの症状は軽度の肺高血圧(肺の血圧がそこまで上昇していない状態)では出現しにくいため、症状が出た時には、既に重症の肺高血圧が認められることが多いと言われています。さらに肺の動脈の圧が上がると、首の側面の静脈(頚静脈)が張ってしまったり、肝臓が大きくなったり、足がむくむ、お腹の臓器の周りに水が溜まる(腹水)なども見られるようになります。

 

診断は?

上記のように様々な症状が出現しますので、CTEPH以外の疾患の可能性も考えてその原因を探る検査が必要になります。

通常は血液検査、心電図検査、心臓のエコー(超音波)検査などが行われます。さらに実際に肺高血圧症の可能性がある場合、肺の血液の分布を確認する肺換気―血流シンチグラム、実際に肺の血管が詰まっているかを確認する造影CT検査、さらに実際の肺の動脈にかかる圧力を測れる心臓カテーテル検査が行われます。

さらにその状態が一定期間(6か月)以上継続することが確認された時点でCTEPHの確定診断となります。

 

治療は?

症状が軽い場合は更なる血栓を予防するため血液を固まりにくくする薬を飲んだり、肺の血管を広げる薬を内服することがありますが、ある程度症状がある場合は手術やカテーテル治療による加療が必要になります。

また、酸素の濃度が下がりやすい場合は在宅酸素の導入が必要になる場合もあります。

手術、カテーテルなどは高度の技術を要する手技であり、総合病院、大学病院レベルでの加療が必須となります。

〇開胸手術:肺動脈血栓内膜摘除術(はいどうみゃくけっせんないまくてきじょじゅつ)(PEA:pulmonary endarterectomy):人工心肺を利用して肺の血管を実際に開いて血管の内側の膜ごと血栓を除去する手術です。

〇カテーテル手術:細い管を血管内に通し、細くなった部分で風船状の構造物を広げ、物理的に血管を拡張させるバルーン肺動脈拡張術(BPA:balloon pulmonary angioplasty)などが行われます。

 

最後に

慢性血栓塞栓性肺高血圧症、治療が難しく、日本では特定疾患(難病)に指定されています。循環器内科の専門家のもとで厳重な管理が必要となる疾患ですが、症状は息切れなど疾患に特異的なものではなく、おそらく診断までに時間がかかってしまっている場合もあると思われます。普段よりすぐに息切れがする、SpO2の値が低いなど気になる症状がある場合は(むしろ他の疾患の可能性が高いですが)はやめに内科、循環器内科等を受診するようにしてください。

 

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