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クリニックで出会う希少疾患  ~家族性地中海熱~

家族性地中海熱・・聞いたことがある方はかなり少ないかと思います。家族性・・遺伝性があるのかな?地中海!?・・はいっ!?熱・・まぁ熱がでる疾患なのだろう、という感じでしょうか。自分自身も初めて聞いた時はウェストナイル熱のような地域の感染性の発熱疾患?のように思いました。非常にまれな疾患で日本では特定疾患(難病)にも指定されています。今回は家族性地中海熱についてご紹介します。

実例紹介

家族性地中海熱とは?

症状は?

原因は?

診断は?

治療は?

最後に

 

□実例紹介

先日「月に1回高熱が出る。比較的すぐに下がるが寒気もあり、高いと39度を超えてしまう。熱以外の症状は特にないが、いかんせん熱が高いので身体がつらい」という主訴の患者さんがいらっしゃいました。発熱といえども、例えば時々37度を超える程度、であればただ体温が高めになる高体温の可能性もありますし、特に女性の場合は月経周期に合わせて月の中でも体温変化があります。しかし、月1回39度を超える熱が出る、というのは普通はあまり想定できない状況で何らかの疾患が関わっている可能性が高いと考えられます。

発熱がない期間は全く症状もない、ということで、発熱時の来院をお願いしたところ、比較的すぐに発熱(39度、寒気、その他症状なし)があり、クリニックに再度来院を頂きました。血液検査をしたところ、体内の炎症を示すCRPという値が非常に高い・・一時的に体内に強い炎症がおこり、発熱が生じていることが確定されました。この時点で「周期熱」の何かかな?ということで文献等を確認、家族性地中海熱の可能性があるということで、総合病院の「膠原病科」にご紹介となりました。現在は内服加療で経過されています。

家族性地中海熱とは?

家族性地中海熱(famirial mediterenean fever: FMF)とは、周期性的に繰り返す発熱に加えて、漿膜炎(内臓を包む膜)や関節炎を特徴とする自己炎症性疾患です。発症は通常5~15歳と言われていますが、これよりはるかに早いことも遅いこともあり,早い場合は乳児期の場合すらあります。2009年の全国調査で日本国内の患者数は約500名と推定されていましたが、この病気自体の認知度の高まりもあり、近年患者数は増加しています。

「地中海」の名前の由来はずばり、地中海沿岸部に遺伝的起源をもつ人々に多く見られる疾患であるからです。ただし、日本やキューバなど地中海沿岸と関係のない地域でも認めるため、人種だけを理由にこの疾患を診断したり、逆に除外したりすることは出来ません。

症状は?

典型的には繰り返す38℃~40℃の高熱が主な症状となります。発熱時に腹膜炎を伴うことが多く、患者の95%程度が腹痛を自覚しますが、その重症度は発作ごとに異なるため、症状が毎回違う、ということも起こり得ます。強い腹痛を伴う発作のピーク時には腸管の動きが減弱したり腹部が膨隆したり、その他虫垂炎(盲腸)などでもみられる筋性防御,反跳痛という症状も伴うことが多く,受診時の身体診察では重症の腹部内臓疾患と見分けることが非常に難しい場合もあります。一部の患者さんは正しい診断がつく前に緊急の開腹手術が行われてしまう場合もあるほどです。

症状

〇繰り返す高熱

・38度以上の発熱

・12時間から3日間持続し、特に治療をしなくても自然に解熱する

・発作頻度はバラバラ 2~6週ごとが多いが週2回、数年に1回という場合もある

〇腹痛(程度は様々、激痛~軽微な痛み)

〇関節痛 (股関節、膝関節、足間接(くるぶし)など下半身の関節に出やすい)

〇皮膚の発疹

原因は?

遺伝子の異常が同定されていますが、遺伝子異常があっても症状がない人、逆に典型的な症状があっても遺伝子異常がない人も見つかっており、まだまだ分からないことが多い疾患です。細かい分子生物学的な話題が気になる方は以下のキーワードも検索してみて下さい。

Key Word:MEFV遺伝子、インフラマソーム、パイリン

診断は?

症状と遺伝子検査(MEFV遺伝子の変異を調べます)から診断をつけていきますが、中々診断に至らない例も沢山あると考えられます。

発熱の発作が起きている場合、血液検査を行うと(この病気だけに特徴的な所見ではありませんが)体内の炎症を示すCRPや血清アミロイドAという検査項目の値が著明高値を認め、発作が収まると速やかに正常化する、という特徴があります。

治療は?

しばしば自己免疫疾患(自分の免疫が自分の組織を攻撃する疾患)では免疫抑制作用のあるステロイド剤が非常に効果的ですが、この家族性地中海熱に対してはステロイドは無効です。一方でコルヒチンという痛風の時なども使う薬が非常に効果的であると知られています。およそ85~90%の患者さんで寛解(ほぼ発作が無くなる状況)が達成されます。

この家族性地中海熱、ただたまに熱が出る病気なら薬なんて要らないのでは!?・・なんて思う方もいるかもしれませんが、実は発作を繰り返すと臓器にアミロイドという物質沈着する「アミロイドーシス」を引き起こすことが知られています。腎臓や肝臓にアミロイドが沈着すると、腎機能、肝機能の低下を招くため、やはりしっかりと内服で発作を管理することが非常に重要です。

最後に

家族性地中海熱に加え、周期性発熱症候群や周期性四肢麻痺など稀で不思議な症状を呈する疾患があることは大学時代に学んだ記憶がありますが、臨床の現場では中々出会うことがないのも事実です。繰り返す発熱や腹痛がある場合、数時間、数日で軽快するため受診せず様子を見てしまっている方もいるかもしれませんが、長い目で見ると是非一度内科受診をしておいた方がいい場合もあります。

もし周期的な発熱を認める場合は、

〇いつ

〇何度くらいの発熱が

〇どのくらいの期間 起こるかを記録すると共に、

〇その他の症状(関節痛、腹痛、湿疹、その他気になる症状)

〇家族に実は同じような症状の人がいないか を確認してから受診されると、診断の一助になる可能性があります。

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