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悪性高熱と悪性症候群とセロトニン症候群 備忘録

混じりませんか?悪性高熱と悪性症候群とセロトニン症候群・・どれも高体温、筋硬直を来す、珍しいものの危ない疾患、という認識はあるものの、名前も似ており普段意識することもないため、改めて考えるとしっかり理解できていない病気だなと思いました。

ということでそれぞれについて備忘録を記載しておきます。

悪性高熱;麻酔の合併症 ←外来で診療する機会はほぼなし!

悪性症候群;向精神薬、制吐剤、ドパミン作動薬の離脱に伴う合併症 

セロトニン症候群;抗うつ薬やMAO阻害薬の容量変更に伴うセロトニン活動の過剰からおこる疾患

これが基本です。以下詳細です。

悪性高熱:素因のある患者が全身麻酔(ハロタン、サクシニルコリン等)を受けた場合に出現する合併症です。特徴的な筋の硬直、頻脈や不整脈、代謝性アシドーシスが出現し、その後急激な体温上昇が出現します。筋硬直による横紋筋融解によりミオグロビン尿や高カリウム血症を呈します。基本的にエピソード、前後関係と所見から診断が可能な病態です。

骨格筋にあるリアノジン受容体(RyR1)の遺伝子変異が素因となり、細胞内のカルシウム濃度の変化が上記症状を出現させているようです。

治療のKeyは原因薬剤の即時中止とダントロレンナトリウム投与であり、筋硬直の軽減をはかります。また、ABCの維持のため、酸素投与、血圧の維持、酸塩基平衡や電解質の補正を行います。

悪性症候群;ドパミン受容体遮断作用のある抗精神病薬の使用、ドパミンアゴニスト(抗パーキンソン病薬)の急激な中止で発症することから、ドパミン受容体の急激な遮断および、ドパミンと拮抗作用のあるセロトニンやノルアドレナリン作用の増強が発症に関わっていると推定されています。発症メカニズムの詳細は解明されていないのが事実です。

症状:悪性症候群は原因薬物の使用、中止後しばらくしてから徐々に発症してくるのが特徴です。数日~長い場合は週単位の経過で発症します。症状としては発熱(通常38度を超える)、意識障害、自律神経症状(発汗、頻脈・動悸、血圧の変動、尿閉など)、錐体外路症状(筋強剛、振戦、ジストニア、構音障害、嚥下障害、流涎など)が挙げられます。セロトニン症候群に比べ、反射亢進やミオクローヌスの発現頻度が低いことが特徴です。また、セロトニン症候群に比べ、精神症状も軽いことが多いようです。

検査所見:筋硬直(強直)に伴いCKの高値やミオグロビン尿、白血球の増多が出現します。

治療;原因薬物の中止、ABCの確保および冷却が必要です。適応のある薬剤はダントロレンのみであり、現在治療の第一選択となっていますが、海外ではドパミンアゴニストのブロモクリプチンも効果があるとされており、投与は検討されるべきと考えます。

ダントロレン;初回量40mgを静注し,20mgずつ追加していく。1日総量は200mgまでであり、経口投与が可能になれば,経口薬に切り替える。

ブロモクリプチン;1日15~22.5㎎

※パーキンソン病治療薬の怠薬や減薬、中止が原因となっている場合は悪性症候群発症前の用量で再開が好ましいとされています。できれば経口・経管で経腸投与を行い、それが困難な場合はL-Dopaの点滴製剤を1日3回程度に分割して行います。ただし、L-dopa自体は比較的早期に血管内で代謝されてしまうため、投与はゆっくり、分割して行います。(パーキンソン病治療ガイドラインより)

セロトニン症候群;疾患の本体は脳内の「セロトニン活性の異常な上昇」です。通常セロトニン作動薬の開始や容量変更から24時間以内に急激に発症します。(悪性症候群より経過が早いのが特徴です)

症状:原因薬物摂取から多くは6時間以内で急速に精神状態の変化、自律神経活動の亢進、神経筋障害の3主徴が様々な組み合わせ、重症度で出現します。発熱はなし~軽度のこともありますが、悪性症候群と鑑別が難しい場合も少なくありません。

□精神状態の変化:不安,興奮および不穏,驚きやすさ,せん妄

□自律神経の活動亢進:頻脈,高血圧,高体温,発汗,シバリング,嘔吐,下痢

□神経筋の活動亢進:振戦,筋緊張亢進または筋硬直,ミオクローヌス,反射亢進(悪性症候群では認めづらい所見)

検査所見:エピソードと身体所見から診断されるため、確定診断に必要な血液検査や画像診断はありませんが、その他疾患の鑑別目的に一連の血液検査(血算、生化学、凝固、血糖など)や頭部CT撮像は行われることがおおいかと思います。

治療:原因薬物の中止が最重要です。その他軽度の症状であればベンゾジアゼピン系薬剤による鎮静で通常24時間以内に改善が見込めます。重症例、すなわちABCが保てない場合は、各異常に対する支持的な加療が必要となります。それでも症状が持続する場合は,セロトニン拮抗薬のシプロヘプタジン(抗アレルギー薬として発売されている)を経口で,または粉砕後に経鼻胃管を介して(12mg,その後反応が生じるまで2mgを2時間毎に)投与することも可能です。悪性症候群の場合とは異なり,ダントロレンを使用すべきではないのも注意が必要です。

 

最後に悪性症候群とセロトニン症候群を表にまとめておきます。似て非なる疾患・・疑い患者さんを診た時は落ち着いて診療したいものです。

  悪性症候群 セロトニン症候群
原因薬剤 DAアンタゴニスト

DAアゴニストの中止

セロトニンアゴニスト

(SSRI、MAO阻害薬等)

発症までの時間経過 数日~数週間 数分~数時間(24時間以内)
改善 徐々に改善(~9日) 24~72時間
発熱 90%以上 45%
意識障害 90%以上 50%
自律神経障害 90%以上 50~90%
筋硬直(筋強直) 90%以上 50%
反射亢進 まれ しばしばある
ミオクローヌス まれ  しばしばある
ドパミンアゴニスト 改善させる 増悪リスクとなる
セロトニンアンタゴニスト 改善させる
ダントロレン ×

 

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