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急性膵炎 突然の腹痛 内臓の”やけど”とも言われる怖い病気です
急性膵炎という病気を耳にしたことがあるでしょうか?読んで字のごとく急に膵臓(すいぞう)という臓器に炎症が起こる病気です。
稀ながら重症化すると非常に危険で、時に命に関わる病気です。最初の症状は腹痛や背部痛というありふれたものであるのが急性膵炎の怖いところでもあります。
今日は急性膵炎という疾患についてご紹介します。
□症状は?
□検査は?
□治療は?
□予後は?
□最後に
膵臓という臓器に急激に炎症がおこる病気が急性膵炎です。膵臓は元々消化吸収を助ける酵素を十二指腸に出したり、インスリンなど身体の機能を維持するのに必須のホルモンをいくつも産生する、目立たないながら非常に重要な臓器です。(膵臓なしでは生きていけません!)その膵臓に何らかの原因で炎症が起こるのが急性膵炎です。(急性ではない、慢性膵炎という疾患もあります)
急性膵炎の原因は大きく2つが挙げられます。第1にアルコール性、第2に胆石性です。アルコールの摂取量が多いと膵液(消化液)の量が増えたり、アルコールそのものが膵臓に負担をかけ、膵炎のリスクとなります。胆石性の場合、胆石によって胆汁や膵液が十二指腸に排泄される出口をふさいでしまい、膵液の流れが滞ります。その刺激で膵炎が引き起こされます。
膵炎の怖いところは膵液が膵臓自体および周囲の臓器を消化酵素によって破壊してしまう点です・・膵液は食物の消化に必要な物質ですが、一方でそれが漏れ出せば自分の身体も”消化”すなわち大事な体の組織も分解・破壊してしまいます。破壊によって組織にダメージが起こると、身体は次々に炎症を引き起こす物質を出し、更に炎症による組織破壊が進行する負のループを引き起こします。結果として膵臓自体に破壊、壊死が起こったり、周囲の組織・臓器まで炎症が及び様々な症状が出現します。
膵炎の主要な症状は腹痛±背部痛です。多くの場合麻薬(モルヒネ等)やそれに準じた鎮痛剤を要する程度の強い腹痛が起こります。急激に腹痛を来す場合も、徐々に腹痛が悪化し、激痛になる場合もあります。
※以前診療した方は胃のあたり、身体の中心の何とも言えない鈍痛と違和感と不快感で身の置き所がない、という主訴で来院され、結果として膵炎であった、という事もありました。必ずしも激烈な腹痛ではないということで驚いた記憶があります。
その他の症状としては、吐き気や嘔吐、炎症の急激な進行による発熱、脈拍の増加、呼吸数の増加、意識の障害まで様々です。
まずは膵炎を疑うことが必要です。持続的な心窩部(みぞおち)や背部の痛み等症状やアルコールの摂取状況、胆石の既往から膵炎を疑います。膵炎を疑った場合必要なKeyとなる検査が血液検査と画像検査(CT、MRI、エコー)です。
血液検査では体内の炎症の程度を確認するとともに、膵臓から漏れ出した酵素に関わる値を確認します。具体的にはアミラーゼ(AMY)やリパーゼという項目を検査します。特にリパーゼは膵臓の疾患で上がりやすく(アミラーゼは膵臓だけでなく唾液腺の疾患などでも上昇してしまいます)、有用ですがすぐに結果が確認できないことが多いのが難点です。
画像の検査では膵臓を実際に描出し、破壊の有無や周囲に炎症に伴う水分(腹水)が貯留していないかなどを確認します。
最も行われるのはCT検査であり、特に膵臓の血流を見る場合は、血管内に造影剤を入れてCTを撮影する造影CT検査が必要になります。
これらの検査を通して、膵炎の確定診断がなされます。
急性膵炎は当初軽症であっても急激に悪化する可能性があり、悪化した場合致命的になることもあるため、入院加療が基本になります。もしクリニックで急性膵炎を疑えばただちに入院加療が可能な消化器内科(や集中治療室)のある総合病院に患者さんを送る必要があります。
治療の選択肢が限られているのも急性膵炎の難しいところです。膵炎とだからと言ってこの薬を使えば治療できる!というものは確立されておらず、まずは大量の水分を点滴し、膵臓の血流を確保、壊死を防ぐことが必要になります。また、強い痛みに対しては麻薬も含めた鎮痛剤の投与が必要になる場合もあります。そして、できるだけ膵臓への刺激を避けつつも、早期からの経腸栄養(点滴ではなく、管などで栄養剤を腸に入れること)が重要と言われています。また、感染兆候があれば抗菌薬(抗生物質)を使うなど各症状に合わせた治療が行われます。
一般に急性膵炎の予後はその重症度によって大きく異なります。特に予後を規定する因子として重要なのが、膵臓やそれ以外の臓器の機能へのダメージ(臓器不全)と膵臓の壊死の有無です。
軽症と診断された膵炎の場合、死亡率は5%未満です。
一方、重症の場合、致死率は跳ね上がります。壊死性膵炎は膵臓に著しい破壊が加わり、膵臓が壊死(組織が完全に、不可逆的にダメージを受けてしまう)してしまう病態で、急性膵炎の約10-20%が壊死性膵炎に至ると言われています。その場合死亡率は15-20%と高くなってしまいます。またこの壊死性膵炎にさらに臓器不全が加わると致死率は50%まで上がります。
急性膵炎じたいは50人程度/10万人/年(1年で10万人当たり50人程度に発症するということ)と決してありふれた病気ではありませんが、一旦重症化してしまうと少なからず致命的な経過を辿る決して侮れない疾患であることがわかります。
研修医時代に急性膵炎の患者さんを受け持ったことがあります。点滴で血管内に水分を入れても、どんどん血管外の組織に水分が漏れ出し、むくみが悪化してしまうため、ご家族が判断できないほど体重が増加したりお顔の様子を変わってしまうのを見て、何て恐ろしい疾患なのだろうと思った記憶があります。もちろん軽症、短期間の入院で日常生活に戻られた方もいますが、一方で悪化した時はとにかく集中的な治療が必要な病気です。アルコールの摂取量が多い方、胆石を指摘されたことがある方、比較的急に強いみぞおちあたりの痛みや背中の痛みを自覚した方、心配な症状があれば早めに医療機関の受診をしていただくのが望ましいでしょう。