一般的にくも膜下出血は予後の悪い疾患であり、発症後1ヶ月以内の死亡率が30%、高度の後遺症が残る方が10%、退院される方は60%となっています。
元の仕事に復帰できる率(社会復帰率)は40%以下であるとも言われ、一度発症してしまうととても怖い疾患であることがわかります。今回はクモ膜下出血についてご紹介します。
クモ膜下出血とは?
頻度や危険因子は?
症状は?
検査、診断は?
治療は?
最後に
クモ膜下出血とは?まずは簡単に脳の構造をご説明します。脳は非常に重要ながらとても柔らかくもろい臓器です。よって何重もの膜に覆われ、守られています。脳の組織にぴったりと張り付いているのが軟膜、その外側に今回の主役くも膜、更に外側に硬膜という膜があります。脳は3重の膜で覆われているのです。そして硬膜の外側に最も頑丈な頭蓋骨があり、脳をしっかり守っています。ただし、硬い入れ物に豆腐を入れてがしゃがしゃ振ったら・・・豆腐は絶対に崩れてしまいます。頑丈な頭蓋骨の中にやわらかい脳と膜だけがあっても脳にダメージが加わります。よってその衝撃を和らげるため、脳は髄液という水に浮いたような形で頭蓋骨の中に納まっています。この髄液という水分が存在するのがクモ膜下腔と呼ばれる部分です。脳に血流を送る動脈もこのくも膜下腔内にあります。この動脈が破れて出血が起こるとクモ膜下腔に血液が溜まる=クモ膜下出血と呼ばれる状態になります。

なぜ血管が破れるのか、ですが。原因は大きく2つに分けれらます。頭部のケガに伴う外因性(出血の原因が脳の外にある)と動脈瘤の破裂による内因性の出血です。

動脈瘤は動脈のこぶであり、壁に凸っと膨らみを作ったり、血管自体が膨らんで形成されます。動脈瘤は正常の動脈に比べ壁が薄かったり不完全であるため、破れやすく、血圧の上昇などの刺激で破裂すると出血を起こします。

普段私たちが手足のケガなどで見るじわじわとした出血は静脈からの出血です。一方動脈瘤が破裂した場合、血圧に併せて血液がビュービューと吹き出します。よって急激に脳の周囲に血液がたまり、激しい頭痛や意識障害、重度の場合は呼吸停止から致命的な経過を辿ることになります。

頻度や危険因子は?

他の疾患同様、脳動脈瘤によるくも膜下出血の頻度は年齢によって上昇します。好発年齢は50-60歳以降、女性の方が高齢での発症が多いようです。

頻度は10-20人/10万人/年(1年で人口10万人あたり約10-20)ですが、地域の人口構成によっても異なります。また、男性に比べ女性が2倍多く発生しているのも特徴的です。危険因子として高血圧・喫煙・多量の飲酒、家族性などが挙げられています。意外な点かもしれませんが、他の生活習慣病とことなり、くも膜下出血のリスクは肥満より痩せと関連しています。

やせ型高血圧、大量飲酒、喫煙者でリスクが高くなるということです。

症状は?

出血の程度によって様々です。出血の量が多かったり、生命維持にかかわる部分のダメージが大きければ突然倒れ、そのまま意識が戻らず亡くなる場合もあります。

自覚できる症状としては

〇突然発症した強い頭痛 がKey wordになります。この突然は何時何分、ドアノブに手をかけた瞬間、など本当に突然出現する頭痛であり、じわじわと数時間、数日かけて悪化してくる頭痛ではありません。また頭痛の程度も強いことが多く、突然バットで殴られたような痛み、と形容されることもあります。

※もちろん個人差があるので、そこまで頭痛がひどくないもののCTでクモ膜下出血が見つかることもあります。

その他症状としては

〇意識障害(呼びかけに反応が鈍い、しない~ぼーっとしておりいつもと違うまで様々な程度の意識障害があります)

〇嘔気、嘔吐 頭蓋内の圧力が上がることで胃腸に問題がなくても吐き気や嘔吐をきたす事があります。誤嚥に注意が必要です。

〇高血圧 脳内の出血ではクモ膜下出血でも脳出血でも血圧は非常に高くなることが多いです。上の血圧が200mmHgを超えていることも稀ではありません。

 

検査、診断は?

→頭部の単純/造影CT、MRI、腰椎穿刺

最も明確に診断がつくのが頭部のCT検査です。突然の頭痛や意識障害でクモ膜下出血を疑う場合、まずCT検査を行われることが多いです。これによって特徴的な出血が見つかればクモ膜下出血の診断がつきます。原因となる動脈瘤を探す場合、普通のCT検査では難しいため、血管内に造影剤を入れ、血管を目立たせて行う造影CT検査が必要になります。

頭部のMRIでも出血の検出は可能ですが、CTより撮像できる場所が限られる上、時間もかかるため、ルーチンで行われることは多くありません。

時々非常に困った症例があります。発症形式からはクモ膜下出血が否定できないにも関わらず(突然の強い頭痛±嘔気嘔吐、リスク因子あり など)CTでは明らかな出血が見えない場合です。もし動脈瘤の破裂なら、2回目に大きな出血を来せば命に関わります。警告出血と言って、大出血の前に少量の出血で症状が出る場合があるのです。これは絶対に見逃せません。再破裂の前に治療ができれば、全く後遺症を残さずに社会復帰できるからです。よって、最終的に判断がつかない場合は腰椎穿刺という手技が必要になります。腰の骨の間に細い針を入れ、脳の周りにある髄液を少量採取します。もしこの髄液が赤かったり、血液成分が入っていれば警告出血であったと判断し、より精密な動脈瘤検索の検査等が必要になるのです。

治療は?

残念ながら症状が重いクモ膜下出血の場合、病院に搬送された時点ですでに手遅れ、治療が困難な場合も少なくありません。その場合は指示的に血圧や呼吸の管理を行うしかありません。

一方、治療可能な動脈瘤の場合、手術治療が行われます。具体的にはカテーテルという細い管を使って脳の動脈瘤に金属を詰め、破裂を防ぐコイル塞栓術と頭を開けて動脈瘤にクリップをかけてしまうクリッピングがあります。どちらも脳外科の診療領域です。カテーテルの場合、開頭が必要ないものの、再破裂した場合に対応が難しくなる、必ずしもしっかり金属が動脈瘤にはまらない、などメリット、デメリットがあります。開頭手術の場合、目視で動脈瘤にアプローチできる、再出血の場合も止血の操作が可能(な場合もある)というメリットがありますが、やはり手術に耐えられる体力の有無や脳の場所によっては手術で到達できない、などデメリットもあります。

いずれにしても症状の程度や動脈瘤の位置、全身の状態などを総合的に見て、治療法が選択されます。

最後に

クモ膜下出血は50-60歳代に好発します。つまり働く世代、普段とても元気であった人がある日突然亡くなったり重い障害を遺すことになる怖い病気です。実際に自分の知人でもご自宅で倒れていた→数日後に亡くなった、原因はクモ膜下出血であった・・、という方がいました。あまりに急なことで本当に驚くとと共に悲しく、また残された家族が大変だ、と思いました。

最近脳ドックが流行っていることもあり、未破裂動脈瘤が見つかることも増えています。破裂すればクモ膜下出血を来すものの、普段は何ら症状がない未破裂の動脈瘤・・破裂前に治療を行うこともありますが、一方で大きさや場所によっては経過観察となることも少なくありません。一生破裂しないかもしれないし、するかもしれない、と考えるととても不安になる状況です。一方で手術適応のある未破裂動脈瘤なら積極的に探すことも意義がありそうです。個人的には50-60代になったら、一度は脳ドックなどで脳や脳動脈の精密検査を受けておくことは必要かもしれないと考えています。

発症してしまったらクリニックレベルでの加療は不可能ですが、そこまで強くない頭痛で発症する場合もあります。気になる症状があれば気軽にご相談下さい。(クモ膜下出血を疑えばすぐに脳外科のある総合病院紹介になります)また、脳ドックについても必要性の有無等について、気になることがあればご相談ください。