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町の小さなクリニックとCOVID19の戦い

2021年師走・・この2年をざっと振り返ってみました。

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当院は2019年、横浜市中区山下町の一角にこっそり開院した医師1人の小さなクリニックです。内科を標榜科とし『女医の若手医師(開院時32歳』を他院との差別化の原点として、必ずしも“勝ち目”のない中での開院でした。
当然といえば当然ですが当初は患者さんの来院数も少なく、どうなっていくのかな・・などと考えながらも2019年12月はインフルエンザのある程度の流行もあり、少しずつ認知の広まりを感じながら過ごしていました。
中国武漢の海鮮市場でよくわからない感染症が流行っているというニュースも他の多くの方々と同様、遠い異国の地の出来事として聞き流していました。ところが、その不気味な感染症は日増しにその存在感を増すことになり、2020年1月の中旬には日本でも感染例が確認されるようになりました。
クリニックがある横浜は中華街の存在に加え、2020年2月3日にダイヤモンドプリンセス号の入港があり、日本国内でもかなり早い段階で“コロナ禍”が始まったように思います。
この時点で新型のウイルスに対する専門家は世界のどこにもおらず、どの程度の感染力を持った感染症なのか?致死率は?感染形式は?悪化のリスクファクターは?など、とにかくわからないことだらけの中で疑心暗鬼が広がっていったように思います。
クリニックとしては当初数か月でおさまるという思いで、ある意味楽観視していたものの、現実はそうではなく、発熱者に対する過剰な警戒心が医療機関だけでなく街中全体に蔓延しました。
当院が新型コロナウイルス感染症の存在を思い知った初回の事態は2021年が始まってまもなく、クリニックにいらっしゃった発熱患者さんが武漢帰りのご友人と会食後であったと分かった時でした。肺炎所見があり、高熱もきたしている、インフルエンザは陰性・・・隔離すると言ってもそもそもどこにどのくらいの厳重さを持ってしていいかもわからない、とりあえず診察室を閉めきって患者さんには横になっていただきつつ対策を考えました。関係各所に手あたりしだい電話をし、当時感染症病棟を開いていた総合病院に搬送の運びとなりました。ほっとしたのもつかの間、今度は搬送手段がありません・・まさか未知の感染症かもしれない患者さんをタクシーに乗せるわけにはいかず、救急車の適応があるほど重症でもなく・・結果数時間の院内待ち時間を経て行政が手配した車で搬送することとなりました。車内がくまなくビニールで覆われた軽自動車に、タイベック+N95マスク、手袋、ゴーグルで全身を覆った重装備の職員さんが乗って現れ、患者さんを搬送していきました。こちらは普段通りの白衣にマスク・・完全なる丸腰・・温度差に唖然とするとともに、思った以上にすさまじい状況になってきているのだなという事を肌で感じた瞬間でした。


「断らない救急」を掲げる横浜市立みなと赤十字病院で医師の第一歩を踏み出した私として、クリニックで発熱患者さんを断る、という選択肢はありませんでした。しかし、鼻息荒く、発熱もどんどん受け入れよう!という気概はあったものの、4月7日に発出された第1回緊急事態宣言の影響で中華街からは人が消え、クリニックも開店休業状態となりました。この期間は身体的には暇を持て余しておりかなりの余裕があったものの、精神的には「自分は医師免許をもちながら何をしているのだろうか・・」とテレビの報道で医療従事者の方々の働きを見るしかない、そういう意味でつらい日々となりました。
2020年6月に一つの転機が訪れました。院内で自費のPCRを始めたのです。検査会社に患者さんの唾液を提出し、PCRを行い、結果を電話連絡するという新しい形の診療が始まりました。当初自費のみであり、検査料金も高額であったにも関わらず、PCR検査の実施件数はどんどん伸びていきました。

その後はコンスタントに患者さんの診療を継続するとともに抗体検査を実施したり、クリニックでできる情報提供をブログやインスタグラムを使って進めるなど、身の丈にあった形でCOVID19診療を続けました。

さらにクリニックの大きな転換点となったのが公費のPCR検査の導入(2020年12月~)、軽症COVID19患者に対するオンライン診療のシステム(2020年8月~)や発熱等診療医療機関の指定取得(2020年10月6日申請)および電話でオペレーターさんが予約を取得する発熱等診療予約センター(2020年11月2日~)の設置です。

オンライン診療に関しては当初、以前お世話になった先生から特に日曜日や祝日の対応で困っていらっしゃる旨お話があり、協力させてください、という形で始めましたが、徐々に神奈川県の医療調整班の方にもクリニックの存在を認知していただき、多い日は診療の合間に電話で30人を超える対応をすることもありました。体調不良に加え不安感や隔離という自由のきかない環境でイライラしたり怒ったりしている患者さんへの対応も必要となり、不条理に電話口でなじられる・・という普段はしない少し嫌な体験もありました。一方で心から感謝していますとおっしゃっていただいたり、中には隔離解除後にクリニックをたずねてくださる方もおり、人の温かさやクリニックの存在意義を感じられる貴重な体験となりました。

発熱等診療予約センターに関しては何度かオペレーターの方とやり取りの不備はあったものの、結果として発熱患者さんの受け皿として一定の役割を担うことが出来ました。特に2020年―2021年の年末年始の期間にははるばる市外(藤沢や逗子など)から当院の受診をいただいた方もいらっしゃり、その需要の多さと(残念ながら)発熱を診療しない医療機関の多さに驚きました。
もはや日常に組み込まれてしまった感もある新型コロナウイルスの存在ですが、当院が最も忙しくなったのは結果として2021年7-8月でした。第5波の勢いは毎日毎日「そろそろ落ち着くかな?」という想像(希望)を余裕で超えていく形で増し、新型コロナウイルスに対するPCR検査もその実施数や陽性率の高さが異常事態となりました。今思い返すとこの時期は通常なら即入院となるような状態の患者さんが行き場を失いクリニックを訪れることもザラとなり、クリニック全体の雰囲気もややぎすぎすした穏やかならざるものになってしまっていたと思います。その中でも入院施設を持つ地域の中核病院が昼夜を問わずCOVID19の重症患者さんを診療している、その事実を常に目の当たりにしており、「少しでも軽症~中等症患者さんを地域で引き受けたい」「そもそも感染拡大を抑えたい」そういう気概で乗り切ってきたと思っています。その後9月中旬からの患者数の激減は逆の意味であっけにとられたものです・・。まさにコロナ禍に翻弄された日々だったと思います。
2021年12月現在、幸い日本国内の新型コロナウイルス感染症は落ち着きを見せており、クリニックも慢性疾患の患者さんをメインにおおむね通常の診療を行うことが出来るようになりました。
第6波が来るのか来ないのか・・・まだまだ予断を許さない状況ですが、引き続きクリニックとしてできることを提供すべく頑張って参りたいと思いますのでよろしくお願い致します。

 

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