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抗生物質~なぜ風邪に使わない?~
抗生物質(抗生剤)・・・細菌を攻撃する薬の総称です。
最近抗生物質の適正使用について、認知も広まりクリニックで「抗生物質をください」という方もほぼいなくなってきました。
しかし、まだまだあまり必要のない抗生物質の使用があるのも事実です。
なぜ”風邪”に抗生物質を使用しないのでしょうか?
*抗生物質が攻撃できるもの
ここが一番重要なのですが、抗生物質は細菌には効果がありますが、ウイルスには効きません!つまりウイルスの感染症にはどんなに抗生物質を使用しても、改善効果は見込めないのです。風邪、別の記事でも書きましたが(→風邪~医師が伝えたいこと~)、基本的にウイルス性の上気道炎です。
したがって、風邪に抗生物質は効かないのです。
でも、とりあえず聞かなくても内服したほうが安心~ という声もあるかもしれませんが、抗生物質、決して副作用のない薬ではありません。
飲まなくてよい抗生物質飲まないほうがいいのです。別に飲んでも飲まなくてもいい薬・・一つもないとは言いません。しかし、抗生物質は必要な人だけ、が飲めばよい薬です!
不要な抗生物質の内服で考えられる悪い作用
□アレルギー:もちろん必要だからと内服してもアレルギー反応が出ることはあります。しかもしばしば薬剤性のアレルギー反応は非常に重篤です。目の前で突然失神した人が抗生物質の内服後で、アレルギーによって血圧が下がっていた、という事例も経験したことがあります。不要な抗生物質の内服で不要なアレルギーを起こすリスクを負う必要はないでしょう。
□腸内細菌叢のダメージ:地味ながら身体への影響は大きいのがこちら。腸内細菌はたくさんの種類の細菌が絶妙なバランスを保って我々の腸内環境を作っていますが、そこに抗生物質が入り、菌がダメージを受けると、そのバランスが大いに崩れることになります。こちらについても、もちろん必要に応じて抗生物質を使用している場合にも避けられない作用ですが、やはり不要な抗生物質で徒に腸内細菌叢に影響を与えることは避けたいところです。実際抗生物質の使用に起因した腸炎も病院では大きな問題となっています(CD腸炎:クロストリジウム ディフィシルという菌による腸炎)。
□耐性菌の出現リスク:これは個人でも集団でも非常に大きな問題です。抗生物質を使用すると、それが効く菌はダメージを受けますが、菌も生物として生き残るため、抗生物質を無効化する物質を作ったり、効果が出ないように自分を作り替えたりすることで、一部生き残る菌が出てきます。そして、気が付いたころにはその抗生物質が効かない種類の菌ばかりが残ってしまう、という状況が起こります。菌同士でその情報をやり取りすることもあり(プラスミドと言い、DNAを相手に渡せる菌がいます)耐性菌の問題は個人の体内だけでなく、社会的に大きな問題になりうるのです。得てしてそういう耐性菌の犠牲になるのは体調が良くない人(高齢者や免疫抑制状態の方)です。社会全体で大事な抗生物質を乱用せず、温存しておくことが非常に必要です。
コラム:細菌とウイルス
医学部では”微生物学”という授業があり、細菌やウイルス、真菌(カビ)、寄生虫について勉強をします。ここでしっかり習うため、医師はたいてい細菌とウイルスの違いについてあまり悩まず理解ができるのですが、一方普通に生活していると、これらを分けて考える必要性ってあまりなく、まとめて”ばい菌”として認識しがちかもしれません。
ものすごくざっくりいうと、より生物らしいのが細菌(自分で増えたり種類によっては動き回れる)、物質ぽいのがウイルス(細菌の1/50~100程度のサイズです)、と言えるでしょうか。
細菌は自身で膜やたんぱくを作って自分で増えたり、べん毛という尻尾を使って動けるやつもいます。体に害がある菌だけでなく、納豆菌や乳酸菌のように人の生活に欠かせない菌も細菌です。
一方ウイルスは自分で増えることができないため、何らかの細胞に寄生をしてDNA(やRNA)を注入して自己複製を図ります。例えばインフルエンザウイルスは人の細胞に寄生していない場合、数時間で死滅しますが、一方、一度人の細胞に入り込むことに成功すれば約1000倍に増殖してしまいます。ウイルスが増えた細胞は破裂してさらにウイルスがまき散らされ、インフルエンザの場合、体内に侵入して24時間後には10000個に増え→症状を現してきます。